主よ、俺は彼女のことが大好きです。
 命を掛けてもいいくらい好きです。……怒られるけど。
 彼女のほうはどう思っているのか、とても気になります。……最終回でものすごく『大嫌い』と言われたんですが。
 この悩みはどうすれば解決できるでしょうか?


「おい、クオ。何やってんだお前。ちょっとアホくさい冒頭だぞ」
 背後でそんな、彼女の声がした。俺は振り返る。礼拝堂の入り口に、彼女が立っていた。
「アシュア、来てくれたんだ! あんなに嫌がってたのに」
「……街で神父さんとたまたま顔を合わせてな。それで……」
 彼女は照れくさげに俯いた。
 彼女の容姿の特徴は、以前神父様に話したことがあったから、それで神父様は彼女が俺の主だと分かったのだろう。赤い髪は、やはりどこでも珍しいのだ。

「それで、茶でも飲みに来たというわけだ」

 と、異質な男の声が聞こえた。
「な!?」
 俺はまさかと思いつつ目をこらす。
 しかし間違いなく、彼女の後ろにレイドリーグが立っていた。
「お前!? なんでここにいるんだ!? 死んだんじゃなかったのか!?」
 俺は無意識のうちに剣を抜いていた。
「おっと、神の御前でそんな無粋なものを出すものじゃないぞ、黄金色の剣士。これには色々とわけがあってだな……」
 と、妙に冷静にあいつは言う。
「わけってなんだよ」
 俺は一応尋ねる。
 レイドリーグは不敵に笑って
「とりあえずこいつは俺がもらう」
 そう言ってあいつはアシュアの肩を抱き寄せた。

「「は!?」」

 俺とアシュアは同時に叫んでいた。
「何言ってんだよこの傷男! おまけエピソードだからって調子乗りすぎだ!!」
 アシュアはそんなことを叫びつつ暴れているが、振りほどけない様子だ。
「そうだそうだ! キャラが完全に壊れたぞお前!!」
 俺もアシュアに同意しつつ駆け出す。
「ふん、俺は実現し得なかったエピソードをここで果たそうとしているだけだ。27話ではこいつが倒れた後、俺とお前との直接対決シーンが予定されていたんだが……」
 レイドリーグは淡々と喋る。
「倒れたヒロインを雨の中にほっぽって対決する男共ってどうよってことでボツになった話だろ!? 携帯サイトのブログで作者が書いてた気がするッ! お陰であの話はどうも尻切れトンボで人気もイマイチとかっ!? ……ってもういいから放せよレイドリーグ!!」
 ある意味で泣きそうなアシュアが叫んでいた。
「アシュアを放せッ!」
 俺は剣をレイドリーグに向けた。
 レイドリーグは冷笑してそのまま外に出た。

 礼拝堂を前に、俺達は対峙することとなった。
「ふ、これで願いが叶うな? さあ、いつかの決着をつけよう、黄金色の剣士。お前も実際、見せ場が少なかっただろう? 主人公なのに」
 レイドリーグはアシュアを少し横に離して、俺を挑発する。
「それを言うなッ! 作者の1番の悩みの種だったんだぞそれ!!」
 俺は剣を振りかぶる。
 しかしレイドリーグは軽くそれをかわして、また口を開く。
「ふん、他にも色々悩みはあったはずだ。……例えば赤髪の魔女。お前、ヒロインのわりにどうもサービス要素が足りなかったな、最後まで」
「んなッ!?」
 端に寄っていたアシュアが反応する。
「別に誰も私にそんなもん望んでないだろッ!!」
 俺はそれを聞いて、少しばかりアシュアのほうを見る。
(そんなことないと思うけどなー。少なくとも俺はもうちょっと色々……)
「おいクオ! なんでこっち見るんだよ馬鹿!!」
 彼女は顔を赤くして叫んでいた。
「くくく、まあいい。俺はこの2週間あいつの影の中にいたんだ。色々見ることが出来たぞ。色々、な」
 レイドリーグは意味ありげに笑う。

(――な!?)

 俺は鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を覚える。
「ちょっと待て! それはどういうことだレイドリーグ!!」
 レイドリーグは冷ややかに、というよりからかうように笑っている。
 それを見ているアシュアの顔は赤い、のを通り越してすでに真っ青だ。
 俺もそろそろ頭に血が上ってきた。
 否、既に上っている。

「「レイドリーグ!! お前の墓場はここだ!!」」

 なぜか絶妙にハモりつつ、アシュアは銃を、俺は剣をあいつに向けた。
 
が。
 
 突然あいつの体が透明に透けていく。
「おっと、時間切れか。……まあいい。その辺の影にでも入って休むとしよう」
 そんなことを呟いて、レイドリーグは消えた。

「……ちょ、何だよあいつ! 散々場を引っ掻き回しといてこれかよ!!」
 俺は苛立って剣を地に刺す。
「まったくだ!! 今度顔を合わせたら即座に抹殺してやる!!」
 アシュアも同じく銃を少し乱暴に腰に戻した。
 
 しかししばらくすると、その怒りの表情はどうも複雑なものに変わりつつあり、何か思い悩んでいる様子だった。
「…………」
 俺はそんな彼女をしばしじっと見つめていた。
 内面はすでに嵐である。
(……レイドリーグの奴! この2週間ずっとアシュアに憑いてたのか!? 色々見たって何を見たっていうんだよクソっ! 俺だって……俺だって……!)
 俺は無言でずかずかとアシュアのほうに近づいていた。
「……なんだよ、クオ。怖い顔して」
 アシュアが俺に気付いてどこか困惑気味に俺を見る。
 そんな眼が、さらに俺のリミッターを外してしまった。

 俺は彼女の肩を掴んで、教会の壁に押し付けた。
「お、おい!?」
 そしてそのまま、彼女の唇を奪う。
 少し、強引気味に。

「っ!?」
 驚いた彼女が俺を押し返したので、それはとても短いキスだった。
「お、お前いきなり何……! 何かいつかのデジャヴを覚えたぞ!!」
 相変わらず彼女は顔を真っ赤にして叫んでいた。
(……もう3回目なのになあ……)
 そう思いつつ、俺はそんな彼女を愛おしく思わざるを得ない。
だって……
「俺はお前のことが好きなんだ! だからレイドリーグがお前にずっと憑いてたのが気に食わない!!」
 俺の口は素直にそんなことを吐露していた。
 アシュアは更に顔を赤くして
「な! お前、またなんかっ、そういうことを! 普通に言うな! 馬鹿!!」
 と、どこか切れ切れに言う。
 俺はめげずに言い返す。
「馬鹿でいい。俺はあいつよりお前のこと、いっぱい知ってるよな……?」
 アシュアは困惑気味に
「な、なんでそこで私に聞くんだよ! そう思ってるんならそう思ってろ馬鹿!」
 とそっぽを向く。
 俺はそんな彼女を見て、微笑ましくなってつい笑う。
「……じゃあそうする」
「〜〜ああもう! ならさっさとどけ! 傍から見たらあやしいぞこの体勢!」
 彼女は頬を染めたままそんなことを言う。
 そんなことを言われると、ついついからかってしまいたくなる。
 最近気付いた俺の嗜好だ。
「あやしいってどんな風に?」
「ちょ、お前最近意地悪くないか!?」
「うん。自分でもびっくりだ」
「認めるな馬鹿! あーもう頼むからどいてくれっ!」
 彼女が半分やけになってきたので俺は最後に尋ねる。
「なあ、アシュアは俺のこと好き?」
 彼女はそれを聞いて更に顔を赤くした。
 もう耳まで真っ赤だ。
「なに、言ってるんだよ! どっちでもいいだろ、そんなの!」
「どっちでもよくない。聞かせてよ」
 俺は珍しく大胆にそんなことを言っていた。
 レイドリーグのこととかがあったせいだけど、多分今の体勢がかなり優位だからだろう。
「〜〜〜……」
 アシュアははたまた困惑気味に視線を泳がせるが
「……おい。私が嫌いって答えたら、お前どうするんだよ……」
 か細い声でそんなことを尋ねてきた。
「ん? 好きって言わせるまで頑張るよ」
 俺は言い切る。
 彼女相手なら頑張れそうな気がするんだ。
「…………」
 アシュアは呆れたように溜め息をつく。
 それから

「…………嫌いじゃない」

 彼女はそう呟いた。
 俺は一瞬惚けたが、少し困惑する。
「……うーん、と。それって、好きってこと?」
「……さあな。とりあえず答えたぞ」
「なんだよ、意地悪だなー」
「どっちがだよ」
 俺達はそう言いつつ、笑った。
「……じゃもう1回だけさせてよ」
 俺は言う。
「は? 何を」
 本当に分かっていないようなアシュアを見て俺は笑いつつ
「キス。さっきのじゃした感じしないもん」
 と、正直なところを俺は言う。
「っ! そんな感じ別にいらないだろ!? 当たっただろうが、口が!」
 アシュアはそう言うが
「それだけがキスじゃないって、ベインが言ってた」
 と、俺は再び顔を近づける。
「――!」
 今度はゆっくり、優しめに。

「ん――……!?」

 先日ベインに教わった方法を試してみたけど、やっぱりアシュアは驚いたようで、俺の胸に当たる彼女の手が俺を押し離そうとしていた。
 けれど。
 その力も徐々に弱まって、なんというか、妙に穏やかな長いキスになった。

 そっと唇を離す。
 今までで1番長かったせいか、どうも恍惚状態で、しばらくぼうっと見つめ合っていたのだが、
「!! 〜〜〜べ、ベインの奴っこいつに妙なこと吹き込みやがって!!」
 アシュアは顔を赤くして今度こそ俺の腕から逃げた。
「へへへ。他にも色々聞いたぞ。アシュアは俺のものだって印をだなー……」
「い、いつからお前のものになったんだよ! ていうかここで言うな!! 年齢制限入ってないんだぞこの小説!!」
「む、そっか。じゃあ続きはどこかで」
「やめろアホ! ていうかこんなオチは嫌だ! もうちょっとまともなのが良かった!」
「じゃあもう1回する?」
「馬鹿ーーーーー!!!」
「わわっ! 蹴り入れないで! 痛い! 本気で!」



 主よ、俺は彼女のことが大好きです。
 ……この調子だと彼女のほうも、まんざらではないのでしょうか。
 少し自信が湧きました。
 とりあえず、これからも頑張ります。

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